AWS Startup ブログ
AWS パートナーという“名刺”が、スタートアップの信頼をつくる──他社製クラウドから移行したトレーダム社の選択
トレーダム株式会社は、グローバルビジネスの大きな課題の一つである為替リスクを適切にコントロールするシステム「トレーダム為替ソリューション」を開発・提供するフィンテック企業です。同社はかつて、他社製のクラウドを使用していました。その後、AWS への移行によって、開発・運用の効率が飛躍的に向上したといいます。現在は、AWS パートナーネットワーク(APN)にも参加しています。
今回は、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 スタートアップ事業本部 スタートアップシニアアカウントマネージャーの井上 遼と、ソリューションアーキテクトの Torgayev Tamirlan が、トレーダム社 co-CEO 兼 CTO の浦島 伸一郎 氏、執行役員 CDSO の栢本 淳一 氏、バックエンドエンジニアの Thirafi Faza 氏に、クラウド移行の背景について伺いました。
グローバルビジネスにおける「為替リスク」をコントロール
井上:御社の事業概要についてお聞かせください。
浦島:トレーダムは、主に貿易や海外取引を行う企業向けに、グローバルビジネスにおける大きな課題である「為替リスク」を、適切にコントロールするサービスを提供しています。伝統的な金融工学に基づく金融商品と高度な数理モデルや AI を含むデータサイエンス・金融システム開発に基づく技術を融合した、「為替テック」が大きな特徴です。
井上:御社のサービスを利用すると、どのような為替リスクを軽減できるのでしょうか。
浦島:例を挙げると、製造業の企業が海外の企業から部品を輸入、または製造を委託して日本国内で販売するケースがあります。仮に当初の為替レートが 1 ドル 150 円だとすると、100万ドルで仕入れた商品の原価は、1 億 5,000 万円相当になります。これに20%の利益を加えて1億8,000万円で販売するとします。
しかし、こうした業界では発注から支払いまでに 1~2 年のタイムラグがあることも珍しくなく、その間に為替が大きく変動する可能性があります。もし 1 ドル 150 円の時点で製品を発注しても、1 年後に為替が 1 ドル 200 円になれば、仕入に対する支払いは当初想定した1億5,000万円ではなく2億円となります。当初3,000万円の利益を見込んでいましたが、販売代金を受け取っても2,000万円の赤字となる可能性があります。
こうしたリスクを避け、為替変動にかかわらず利益が確保できるように、事業者がヘッジ取引を行いたいタイミングで、40,000体(取材当時)の自社開発のAIが予測した未来を基に、もっとも「安定的かつ有利」な為替予約の取り方をご提案しています。

浦島 伸一郎 氏
Torgayev:御社のシステムでは、生成 AI や機械学習の技術が重要になります。その技術基盤の運用における工夫も教えてください。
栢本:まず、機械学習については「特定のソリューションになるべく依存しない」という考え方をしています。環境構築にはコンテナ技術を用い、数値モデルの構築は Jupyter Notebook + Python で、できるだけシンプルにしています。一方で、生成 AI については「自分たちで作るのではなく、使う」という方針で、Amazon Bedrock を使い倒しています。今後も、Amazon Bedrock に寄せた運用を進めていく方針です。
Torgayev:浦島さんや栢本さんと最初に対面でお会いしたのは、Amazon Bedrock を使ってプロトタイプを作成する招待制ワークショップ「Amazon Bedrock Prototyping Camp」でしたよね。とても意欲的に、技術について学ばれている印象を受けました。
栢本:AWS は進化が早いので、日々の業務に追われていると、なかなか最新の動向に追いつけません。だからこそ、「Amazon Bedrock Prototyping Camp」のようなワークショップがあることで、短時間で知見を得て、実務に活かせるのは便利ですね。

栢本 淳一 氏
サポートの充実度が移行の決め手に
井上:かつて、他社製のクラウドを利用されていたと伺っています。
浦島:はい。そのクラウドも便利に活用していましたが、ある時期に AWS を試験的に使う機会がありました。そこで、AWS のサポート対応がスピーディーかつ丁寧であることを実感したのです。
さらに、AWS はサービスの認知度が高く、クライアント企業からも「セキュリティが高いですよね」と安心していただける点や、各種ドキュメントが非常に充実している点も魅力でした。さまざまな基準で比較検討した結果、最終的には「AWS のほうが自社のユースケースに合っている」と判断し、移行を決めました。
Torgayev:スタートアップ支援プログラム AWS Activate* が提供されていたことは、移行においてプラスになりましたか。
浦島:かなり助かりました。システムの移行期間中は、旧クラウドと AWS の環境の両方でサービスを二重に稼働させる必要がありました。その間のインフラコストは実質的に倍になるため、私たちのようなスタートアップにとっては大きな負担です。その費用を支援していただけたのは、本当にありがたかったです。
*…AWS Activate は、スタートアップ企業や初期段階にいる起業家に対して、AWS を使用する際に必要なリソースを提供することを目的とした、スタートアップ支援プログラムです。このプログラムでは、最大 100,000 USD の AWS Activate クレジットや 24 時間年中無休の技術サポートなどを提供しています。

Thirafi Faza 氏
Torgayev:具体的な移行の流れも、ぜひ教えてください。
Faza:弊社のアプリケーションは、開発・ステージング・本番の 3 つの環境に分かれています。旧クラウド上で運用していたこれらの環境を、AWS へと段階的に移行しました。最初に移行したのは開発環境で、Kubernetes で動かすインフラ周りのリソースを AWS 側に構築し、動作検証を実施しました。
開発環境の移行期間中は、旧クラウドと AWS の両方で環境を並行稼働させていました。動作が安定した段階で旧クラウド側を停止し、ステージングや本番環境についても同様の手順で順次移行を進めました。
Torgayev:AWS 上で構築したアーキテクチャについて教えてください。
Faza:AWS上で構築したアーキテクチャーは上記になります。バックエンドに限定して説明しますと、Amazon EKS 上で 10 種類ほどのマイクロサービスが稼働しており、オートスケーリンググループを利用してノードや Pod のスケーリングを管理しています。Kubernetes を使用していたため、クラウド環境が変わっても設定ファイルや変数を一部変更する程度で移行が可能でした。大きな構成変更を必要とせず、スムーズに環境構築できたのは助かりました。
データベースは Amazon RDS で MySQL と PostgreSQL を併用し、各種アセットは Amazon S3 に保存。ログは Amazon CloudWatch で収集・管理しています。プライベートネットワーク内のデータベースへのアクセスには Bastion サーバーを使用しています。一部のインスタンスは、AWS Systems Manager の Session Manager 経由での接続も併用しています。
栢本:データサイエンスチームは、先ほどお話ししたようにインフラへの依存を排した構成のため、Docker ファイルとソースコードをそのまま移すだけの簡易的な対応で、作業は完了しました。
AWS は信頼性の高いプラットフォームであり、移行も容易
井上:トレーダム社は、AWS パートナーネットワーク(APN)への参加も進められていますが、どのようなメリットや変化を期待されていますか。
浦島:私たちはスタートアップ企業ですから、大手企業と比べるとどうしても知名度や会社としての信用力に課題があります。APNに参加することで、そうした部分を補えるのは利点です。特に、クライアントの方々に向けて技術的な堅牢さをアピールできるのは、大きな意義があると考えています。
Torgayev:APNへソフトウェアパス パートナーとして参加する際は、AWS ファンデーショナルテクニカルレビュー(FTR)*を受ける必要があります。これを通過することで、対外的にシステム品質の高さを証明できますし、APNでは AWS Marketplace 経由でのサービス拡販も可能になります。
*…FTR とは、お客さまがお持ちのソフトウェアやソリューションが、AWS のベストプラクティスに基づいて実装および運用されているかを、あらかじめ定義されている共通要件に従って検証するパートナープログラムです。
御社には、AWS の ISV としてソフトウェアパス パートナー*になるだけでなく、コンサルティングやインテグレーションサービスを提供する、サービスパス パートナー*になることもぜひおすすめしたいです。両方を活用している企業もありますので、今後ビジネスを拡大される際には、ぜひそうしたパートナー加入もご検討ください。
*…AWS ISV パートナーは、独立系ソフトウェアベンダーが AWS で効果的にソリューションを構築、マーケティング、販売するためのプログラムです。提供するソリューションについての技術レビューを受け、審査に通過した企業のみがプログラムの認定を受けるため、確かな技術力を持ったパートナーであることを証明できます。
*…AWS サービスパス パートナーは、あらゆるタイプおよび規模の顧客がクラウドへの移行を加速できるように、コンサルティングまたはマネージドサービスを提供するプロフェッショナル企業を認定するためのプログラムです。

井上 遼(写真左)、Torgayev Tamirlan(写真右)
井上:最後に、AWS 導入を検討されている方々へのアドバイスをお願いします。
浦島:クラウドの移行というと、読者の方々は「大変そうだ」という印象を持たれるかもしれません。ですが、AWS の社員の方々が親身に相談に乗ってくださるので、困ることはほとんどありませんでした。また、AWS は日本国内でも多くの企業や金融機関、政府機関で使われている信頼性の高いプラットフォームですから、不安に感じることはありません。
加えて、AWS は組織としての体制が整っていると実感しています。以前は、井上さんと Torgayevさんではなく別の AWS 社員の方にお世話になっていました。そこから担当者が変わっても、まったく違和感なくスムーズにやり取りができています。つまり、社員の平均的なレベルが高く、かつ業務が属人的にならない仕組みがあるのだと思います。
井上:非常にうれしいお言葉をいただきました。その言葉を聞いて、前任の担当者もきっと喜ぶと思います。今回はありがとうございました。