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【開催報告】異業種7社が対話するアジャイルへの取り組み
イントロダクション
現代のビジネス環境は、デジタル技術の急速な進歩とグローバル競争の激化により、かつてない速度で変化を続けています。デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速により、製造業からサービス業まで、あらゆる産業においてデジタルサービスの提供が不可欠となっています。特に、AI やクラウドテクノロジーの進化により、市場ニーズの急速な変化への対応が求められ、従来型のウォーターフォール開発では顧客価値の迅速な提供や市場投入のタイミングを逃すリスクが高まっています。このような環境下で、迅速な価値提供と顧客フィードバックの反映を可能にするアジャイルの重要性が増しています。
しかし、アジャイルの実践には複数の課題が存在します。まず、組織文化の転換の困難さがあります。従来の計画駆動型からの変革には、組織全体での意識改革と新しい働き方への適応が必要です。また、イテレーティブな開発における技術的負債の管理や、システム全体としての整合性の確保といった品質面での課題も存在します。さらに、アジャイルに限った課題ではありませんが、昨今のリモートワーク環境下でのコミュニケーション品質の維持、AI ツールの効果的な活用方法の確立も新たな課題として浮上しています。これらの課題に対する組織的な支援体制の構築が、アジャイルの成功には不可欠となっています。
イベント概要
本記事では、そのようなアジャイルの課題と可能性について、異業種の企業が一堂に会して行った情報交換会の様子をご紹介します。
2025年2月28日、三菱電機様の DX イノベーションとデジタル基盤 Serendie を推進する共創空間「Serendie Street YIMP」にて、三菱電機様、AWS が共催で「アジャイルへの取り組み 異業種情報交換イベント」を開催いたしました。本イベントには、NTT ドコモ様、竹中工務店様、ベネッセコーポレーション様、みずほファイナンシャルグループ様、三菱電機様、弥生様、某鉄道会社様の各社から、アジャイルへ取り組んでいる実務者の方々にご参加いただきました。(以降、参加企業名については情報保護の観点から、A 社、B 社などのアルファベット表記とさせていただきます。)
[イベントアジェンダ]
・オープニング
・各社紹介(参加各社より5分程度)
・ラウンドテーブルディスカッション
・クロージング
・懇親会
各社紹介
アジャイルの異業種情報交換イベントにおいて、参加各社のアジャイルへの取り組みの現状と課題について詳細な共有が行われました。共通する課題としては、組織面では経営層・現場の理解獲得や予算確保の方法、プロセス面では品質管理の標準化やスケジュール管理、人材面では技術者の確保・育成やチーム間のスキル差が挙げられました。効果的だった取り組みとしては、短いスプリントサイクルの採用や継続的なコミュニケーション、少人数での機動的な運営、混合チームの活用、オンラインツールの効果的活用などが共有されました。
ラウンドテーブル
ラウンドテーブルでは、様々なテーマについて活発な議論が行われ、各社の経験と知見が共有されました。主要なトピックスとその議論内容をご紹介します。
経営層の理解獲得
経営層の理解獲得には、具体的な成果の可視化が効果的であることが複数社から報告されました。事例として、B 社様の開発速度が向上した定量的な効果の提示や、F 社様の「動くもの」を早期に見せることで段階的に理解を得ていく取り組み、D 社様からは「アジャイル関連書籍を経営層と共有するところから始めました」などの活動が共有されました。また、「アジャイルありき」ではなく、企業の課題解決手段としての位置づけで説明することの重要性も確認されました。大切なのは、自社に合った方法を選ぶことで、組織の特性に応じて、トップダウンとボトムアップ、どちらのアプローチも効果的だったようです。
投資対効果の説明
経営層の理解獲得のなかでC 社様から「予算管理部門からの細かな査問への対応に苦慮している」などの課題を発端に投資対効果の説明をどのようにするかも大きな議論となりました。G 社様からの「ウォーターフォールでも投資対効果の説明は本当にできていたのか?」という本質的な問いかけもあり、この問いは、従来の開発手法における投資対効果の説明方法自体を見直すきっかけとなりました。参加企業からは、具体的な取り組み事例が次々と共有されました。E 社様は1年の開発期間中の要望変更リスクを数値化し、B 社様は計画の遅延による損失を具体的に示すことで、アジャイルの価値を説明することに成功したとの報告がありました。さらに、A 社様からは、ソフトウェアの資産価値やセキュリティ担保プロセスも含めた総合的な価値評価の重要性が指摘されました。
投資対効果の評価では費用対効果だけでなく、リスク軽減や価値の早期実現など多角的な価値提示が重要となっています。アジャイルの適応力を経営層に効果的に伝えることが課題とされ、今後は価値の可視化手法や新たな評価指標の開発が求められています。
アジャイル活動の展開方法
このテーマでは、アジャイルにおける内製化と外部パートナー活用について、各社の経験と知見が共有されました。完全な内製化か外部委託かという二元論ではなく、状況に応じた最適なバランスを見出すことの重要性が、議論の中心となりました。B 社様からは「プロダクトオーナーは自社社員、開発メンバーは外部という構成」でのハイブリッド型成功例が報告され、定期的なロードマップ共有による意識合わせの重要性が強調されました。一方、A 社様からは受託思考による主体性の欠如、G 社様からは委託先の文化に影響される開発体制について、課題が提起されました。これらの課題に対し、D 社様はプロダクトオーナーなど核となる役割からの段階的な内製化を進め、F 社様は内製化を人材育成の機会として活用している好例が共有されました。特に印象的だったのは、E 社様から提起された「技術力だけでなく、自律性や改善意識が重要」という指摘です。議論を通じて、外部パートナーとの関係構築においては、契約上の関係性だけでなく、信頼関係とチーム一体感の醸成が成功の鍵であることが明らかになりました。今後は、これらの知見を活かしながら、各社の状況に応じた最適なバランスを見出していくことが課題となります。
アジャイルマインドの 人材を育てるには?
アジャイルにおける人材育成について、特に印象的だったのは、「技術スキルよりも自律性と改善マインドが重要」という考えが、複数の企業から共有されたことです。G 社様からは「愛情を持った育成アプローチ」の重要性が提起され、若手への早期の責任付与と丁寧なサポートを組み合わせた育成方法が紹介されました。一方、D 社様からは若手プロダクトオーナーへの過度な負担や兼務による負荷増大という課題が示され、段階的な育成プログラムとスクラム研修の組み合わせで対応されているとのことです。特徴的だったのは、各社の状況に応じた工夫です。A 社様は非 IT 企業ならではの課題に対して自律性を重視した採用基準で対応されています。また、E 社様からは指示待ちではない主体的な行動を促す取り組みが共有されました。議論を通じて、技術面のスキルアップだけでなく、人間的な触れ合いを大切にしながら、自律性や改善マインドを育むことの重要性が確認されました。即効性のある施策と長期的な育成の両面からのアプローチが、アジャイル人材育成の鍵となりそうです。
これらの議論を通じて、アジャイルの成功には、組織の特性に応じたカスタマイズと段階的なアプローチが重要であることが、改めて確認されました。
まとめ
今回の異業種情報交換会では、参加企業から非常に高い満足度が示され、業界を越えた情報交換を通じて重要な知見が共有されました。
特に注目すべき結論として、アジャイルの取り組みによる変革の本質は技術導入以上に、人材と組織文化の変革にあることが確認されました。「自律と改善」のマインドセットの重要性や、内製化との組み合わせによる効果の向上についても、参加企業間で強い共感が得られました。また、完璧を目指すのではなく小さな成功を積み重ねていく実践的アプローチの有効性が強調され、「自律性」と「楽しさ」が持続的な変革の重要な要素として認識されました。
さらに、多くの企業が類似の課題に直面している一方で、その解決へのアプローチは業界特性や組織文化に応じて多様であることが明らかになりました。各社の独自の工夫や成功事例の共有を通じて、異なる業界の取り組みから学べる点が多く、参加企業からは、より少人数でのディスカッション機会の増加や、参加企業間のインタラクティブな対話の充実を求める声も聞かれました。
アジャイルの具体的な取り組みは各社の状況により様々であり、効果的なアプローチを見出すためには、このような業界を越えた情報交換の場が重要な役割を果たすことが確認されました。本イベントで参加企業各社が得た知見を実務に反映し、具体的な成果につなげることが期待されます。