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Amazon ECS MCP Server を用いたコンテナデプロイメントの AI 支援と自動化
この記事は Automating AI-assisted container deployments with the Amazon ECS MCP Server (記事公開日 : 2025 年 5 月 29 日) の翻訳です。
導入
アプリケーションのコンテナ化は、モダンなクラウドデプロイメントの標準として、一貫した環境と効率的な依存関係管理、シームレスなスケーリングを提供します。しかし、コンテナ化とデプロイメントのプロセスは依然として手動で時間がかかります。多くの場合、開発者は Dockerfile の作成やネットワークの設定、コンピューティングリソースの割り当て、デプロイメントパイプラインの管理を行う必要があります。これにより、経験豊富な開発者でさえ、Amazon Q Developer などの人工知能 (AI) アシスタントを用いて効率化できるはずの繰り返しのタスクに時間を取られています。
この課題を解決するために、AWS は Amazon Elastic Container Service (Amazon ECS) アプリケーション構築のための Model Context Protocol (MCP) サーバーを発表しました。これは AWS MCP Servers の新たな一員として、AI 支援開発と本番環境に対応した Amazon ECS デプロイメントベストプラクティスの間のギャップを解消します。Amazon ECS MCP Server を使用することで、Amazon Q Developer などの AI アシスタントは AWS Fargate と Application Load Balancer (ALB) を活用しながら、アプリケーションを自動的にコンテナ化して、Amazon ECS へのデプロイメントを管理できるようになります。この記事では Amazon Q Developer に焦点を当てていますが、この MCP サーバーは MCP プロトコルをサポートするあらゆる AI エージェントやクライアントと連携するように設計されています。
これは Amazon ECS MCP Server の最初のバージョンであり、その歩みを始めたばかりです。時間をかけて、より多くのベストプラクティスとより幅広い機能で、その能力を拡張していく予定です。
概要
Amazon ECS MCP Server は、AWS でコンテナアプリケーションを管理するための堅牢なツールキットを提供します。その機能は、開発、デプロイメント、運用、トラブルシューティング、廃止まで、アプリケーションライフサイクル全体をカバーする以下のカテゴリを中心に構築されています。最初のバージョンの Amazon ECS MCP Server では、アプリケーションの分析やコンテナ化、クラウドデプロイメント、モニタリング、メンテナンスを支援するいくつかのツール (MCP サーバーの構成要素) を提供します。
- 開発ツールは、アプリケーションコードを分析して言語やフレームワークを検出し、適切なベースイメージと依存関係を持つ最適化された Dockerfile を作成するためのガイダンスを提供します。これには、効率的なコンテナ化のためのマルチステージビルドやレイヤー最適化が含まれます。
- デプロイメントツールは、AWS CloudFormation を使用して Amazon ECS 環境をプロビジョニングします。これらのツールはリソースの依存関係を処理し、最小権限の AWS Identity and Access Management (AWS IAM) ポリシーを設定し、AWS Software Development Kit (AWS SDK) を用いてポーリングすることでデプロイメントを監視します。
- トラブルシューティングツールには、Amazon ECS の各コンポーネント向けの特別なアナライザーが含まれています。これらのツールは、ログパターン認識、イベントストリーム分析、障害パターン検出、およびガイド付き診断のための決定木エンジンといった機能を持ちます。
- 運用ツールは、クラスター、サービス、タスク、タスク定義などの Amazon ECS リソースを一覧表示および記述するための読み取り専用インターフェースを提供します。これらは自然言語によるフィルタリングオプションをサポートし、Amazon ECS インフラストラクチャに関する詳細な情報を提供します。
- 廃止ツールは、依存関係を考慮した削除の順序付けと削除前の検証を実施します。これらのツールは、命名パターンに基づいてスタックを識別し、リソースを包括的に追跡し、コンポーネントの削除漏れを防止します。
この MCP サーバーのアーキテクチャは、セキュリティと運用のベストプラクティスを維持しながら、デプロイメントとトラブルシューティングの手間を最小化するように設計されています。AWS SDK を通じて AWS サービスと直接連携し、インフラストラクチャのプロビジョニングに AWS CloudFormation を使用することで、異なる環境間で一貫性のある再現可能なデプロイメントを実現します。
Amazon ECS MCP Server で利用可能なツール
Amazon ECS MCP Server には、コンテナアプリケーションの開発と運用をサポートするための以下のツールが含まれます。
ツール名 | タイプ | 用途 |
containerize_app | 開発 | Dockerfile 作成のガイダンスを提供 |
create_ecs_infrastructure | デプロイメント | AWS CloudFormation を使用して Amazon ECS インフラストラクチャをプロビジョニング |
get_deployment_status | デプロイメント | デプロイメントステータスを監視 |
ecs_resource_management | 運用 | リソースインベントリを管理 |
ecs_troubleshooting_tool | トラブルシューティング | Amazon ECS サービスおよびタスクに関する問題を診断 |
delete_ecs_infrastructure | 廃止 | リソースのクリーンアップを支援 |
ウォークスルー
Amazon Q Developer では、mcp.json
ファイルを使用して MCP サーバーを設定します。このファイルは、グローバルで使用するためにホームディレクトリ (~/.aws/amazonq/mcp.json
) に保存するか、チーム全体で共有するためにワークスペースのルート (.amazonq/mcp.json
) に保存することができます。Amazon Q Developer における MCP サーバーの詳細な設定手順については、このブログ記事を参照してください。Amazon ECS MCP Server の設定例はこちらから確認できます。
設定が完了したら、ターミナルで q chat
コマンドを実行して Amazon Q Developer CLI の新しいセッションを開始しましょう。以下のように /tools
コマンドを実行することで、利用可能なツールの一覧を確認できます。
AI の支援によって、Amazon ECS リソースの管理は自然言語で質問するだけのシンプルなものとなります。“How do I deploy my app to AWS?” (このディレクトリにあるアプリを AWS にデプロイしてください) と尋ねると、Amazon Q Developer はそれをデプロイメントリクエストとして解釈します。Amazon ECS MCP Server の分析機能を呼び出し、一連のツールを実行してアプリケーションをコンテナ化し、Amazon ECS にデプロイします。次のセクションでは、関連するツールと、これらのツールがコンテナワークロードのライフサイクル全体をどのように効率化するかを確認します。
(訳註: 実際にAWS 上にリソースを作成したい場合は、MCP サーバーの環境変数 ALLOW_WRITE
を true
に設定する必要があります。また、Amazon Q Developer から情報を求められた場合は、対話形式で追加の指示を入力することができます。)
開発およびデプロイメントツール
containerize_app
ツールは、アプリケーションのソースコードをスキャンしながら、“Analyzing application structure…” (アプリケーションの構造を分析中…) や “Creating Docker file…” (Dockerfile を作成中…) といったメッセージで進捗状況を通知します。また、ローカルでアプリケーションを開発およびデバッグするのに役立つ Docker Compose ファイルも作成します。“What runtime version was detected?” (検出されたランタイムバージョンは何ですか?) や “Show me the planned container configuration” (計画しているコンテナの設定を表示して) といったフォローアップの質問を投げかけることもできます。
その後、Amazon Q Developer は create_ecs_infrastructure
ツールを呼び出し、コンテナ化されたアプリケーションを Amazon ECS に自動的にデプロイします。このツールは、Amazon Virtual Private Cloud (Amazon VPC)、サブネット、セキュリティグループ、IAM ロールおよびポリシーなどの必要な AWS インフラストラクチャをプロビジョニングします。さらに、ECS クラスターやタスク定義、サービス、ALB をセットアップし、外部からのトラフィックを受信できるようにします。すべてのリソースは CloudFormation テンプレートを使用して作成されます。また、Amazon Q Developer に対するプロンプトでパラメータを指定することで、デプロイメントをカスタマイズできます。例えば、VPC とサブネットの設定、CPU とメモリの割り当て、タスク数、オートスケーリングオプション、コンテナポート、環境変数、ヘルスチェックパスなどを指定することができます。
また、“How’s my deployment going?” (デプロイメントの進行状況を教えて) のようなプロンプトを入力することで、デプロイメントの進行状況を追跡できます。裏側では、Amazon Q Developer が get_deployment_status
ツールを呼び出して、Amazon ECS におけるデプロイメントをリアルタイムで監視します。デプロイメントが完了すると、Amazon Q Developer は基本的なヘルスメトリクスとともにアプリケーション URL を表示します。アップデートの際は、“Update my React app” (React アプリケーションをアップデートして) などの指示や “How is my application performing?” (アプリケーションの動作状況はどうですか?) などの質問を使用できます。Amazon Q Developer の自然言語インターフェースと Amazon ECS MCP Server を用いた自動化によって、Amazon ECS におけるデプロイメントの管理は、専門の DevOps エンジニアとチャットするのと同じくらい直感的になります。
以下のシーケンス図は、これらのコンポーネントがどのように相互作用するかを示しています。
トラブルシューティングツール
Amazon ECS 環境での問題の調査と解決を支援するために、Amazon ECS MCP Server には統合的な診断ツール ecs_troubleshooting_tool
が含まれています。このツールは、インフラストラクチャのプロビジョニングからアプリケーションの動作まで、Amazon ECS インフラストラクチャの様々なレイヤーに可視性をもたらすいくつかのアクションを提供します。このツールでできることは以下の通りです。
- トラブルシューティングのためのガイダンスの取得: まずは大まかなレベルの評価から始めます。このアクションは Amazon ECS 環境を評価し、デプロイメントの状態に基づいてトラブルシューティングのためのガイド付きの計画を提案します。
- CloudFormation スタックの分析: CloudFormation スタックの失敗したリソースやエラーメッセージを確認し、インフラストラクチャレベルの問題を詳しく調査します。
- サービスイベントの調査: Amazon ECS サービスイベントを確認して、アプリケーションに影響を与えるサービスレベルの設定ミスや障害を特定します。
- タスクの失敗の診断: リソースの制約やアプリケーションエラーなど、失敗したタスクのパターンを特定し、信頼性とパフォーマンスを向上させます。
運用ツール
Amazon ECS 環境の調査と理解を支援するため、Amazon ECS MCP Server には読み取り専用ツール ecs_resource_management
が含まれています。このツールは Amazon ECS インフラストラクチャの一元的なビューを提供し、カスタムスクリプトを作成したり AWS マネジメントコンソールにログインしたりすることなく、自然言語クエリを使用してリソースの構成を探索できるよう支援します。このツールでは、以下のことを実現できます。
- Amazon ECS リソースの一覧表示: ECS クラスター、サービス、タスク、タスク定義、コンテナインスタンス、キャパシティプロバイダーに関する情報を素早く取得します。
- 設定の詳細表示: 起動タイプや希望するタスク数、サービスディスカバリーの設定、タスク定義など、Amazon ECS リソースの詳細なメタデータを取得します。
- 自然言語フィルターの使用: “What services are running in cluster X?” (クラスター X で実行中のサービスは何ですか?) や “Show me tasks using container image Y” (コンテナイメージ Y を使用しているタスクを表示して) などの質問をすると、ツールがその内容を解釈して関連する結果を返します。
- 運用の可視性向上: Amazon ECS リソース間の依存関係を理解し、インフラストラクチャが期待される構成になっていることを確認できます。
廃止ツール
環境をクリーンアップする準備ができたら、“Tear down my ECS stack.” (ECS スタックを削除して) と尋ねることができます。Amazon Q Developer は delete_ecs_infrastructure
ツールを呼び出し、MCP を用いたワークフローを通じてプロビジョニングされたすべてのリソースを安全に削除します。依存関係が正しく処理され、コンポーネントの削除忘れがないようにすることで、廃止作業をクリーンで予測可能、かつリスクの低いものにします。
以上です!これで Amazon ECS アプリケーションの開発と運用のためのエンドツーエンドのサポートが整いました。これらのツールは、Amazon Q Developer および MCP プロトコルをサポートするすべての AI アシスタントと互換性があります。アプリケーションのコンテナ化やデプロイメントから、モニタリングとトラブルシューティングに至るまで、コンテナワークロードのライフサイクル全体をサポートします。
次のステップ
AI アシスタントと Amazon ECS MCP Server を組み合わせて使用することによって、Amazon ECS におけるビルド、コンテナ化、デプロイメントに大きな変化がもたらされます。テンプレートのような設定を使用するのではなく、自然言語を使用して、コードの分析からインフラストラクチャのプロビジョニングまで、ワークフロー全体を効率化することができます。
私たちは今後も継続して機能を拡張し、既存のツールを改良していきます。機能の追加リクエストがある場合には、AWS Containers Roadmap リポジトリや AWS MCP Servers リポジトリに Issue をお寄せください。
また、私たちはコンテナ管理におけるユーザーの多様なニーズをサポートするために、Finch MCP Server を開発しました。Finch は、コンテナをローカルでビルド、実行、管理するために設計されたオープンソースのクライアントサイドコンテナ開発ツールです。Finch MCP Server は、コンテナ操作に安全で一貫したインターフェースをもたらし、幅広いユーザー要件を満たす柔軟でエンタープライズ対応のソリューションに対する私たちのコミットメントを反映しています。
ここで紹介したツールは、ユーザーが開発に集中できるように設計されています。新しいプロジェクトを立ち上げる場合でも、既存のアプリケーションをコンテナに移行する場合でも、お使いの AI コーディングアシスタントと共に、そのプロセスをより速く、より楽なものにしてくれるでしょう。
まずは、ぜひ試してみてください! 新しい Amazon Q Developer セッションを開始し、プロジェクトに接続して、“deploy my-app to Amazon ECS” (このアプリを Amazon ECS にデプロイしてください) といった指示を投げかけてみましょう。数分で、本番環境に対応したコンテナをデプロイできることを体験してみてください。
より詳しく学びたい場合は、Amazon Q Developer ドキュメントを参照し、Amazon ECS 開発者ガイドをご覧ください。